
-小野 将平-
Shohei ONO
詩集『モザイクの夢』より
《モザイク集めの旅へ》
心のかけらを探しにゆこう
いまは隙間だらけのモザイクでも
いつかは完成するように
長い旅路は
灰色によどんだ空のように
僕の目を曇らせるかもしれない
つめたい波の飛沫が
あきらめを誘うかもしれない
それでもいつか
朝日にきらめく海原のような
真っ青な空を見上げる
ひまわりのような
明るいモザイクになるように
心のかけらを探しにゆこう
《貝殻のなかの海》
うちよせる波音
なめらかに重なりあって
貝殻のなかは海であふれる
うすぼんやりとした空
まぶしい光を放つ太陽と
凛として白い月が微笑みあうと
何もかもうまくいくような気がして
貝殻のなかに
さざなみ色の夢がひろがる
《風のかなた》
もう
忘れてしまったのかもしれない
石ころひとつが
宝石のように
輝いてみえていたときのこと
今は何でもない道のりが
果てしなく遠かったときのこと
夏の終わりのセミの声に
えも言われぬ寂しさを
感じたときのこと
そういう気持ち
もう想いだせないのかな
《ささやかなる願い》
風が静まり
水平線が赤紫に染まるころ
ぼんやり想う
どんなふうに生きれば
多くを望まずにいられるだろう
苦しい思い出は
甘い思い出に
失いものはこの手のなかに…
そうやって
思い通りにならぬからこそ
涙を流したり
愛情を感じたり
命のつながりに気づいたり
たくさんの心のかけらを
僕は探しにゆくのだろう
朝日にきらめく海原のように
真っ青な空を見上げる
ひまわりのように
明るいほうへ
明るいほうへ
《雨のパヴァーヌ》
今朝は通りも屋根も
みなグレイに濡れている
道ゆく人の傘からは
しずくが流れて消えてゆく
Rainy feel
ため息をついてちゃ
雨の一粒一粒だって
無表情に乾いて見えるだろう
心静かに
雨だれに音楽を聴いたなら
むらさきや黄色やオレンジに
きらきら光って見えるだろう
《月のひかり》
目を閉じていても
白々と輝く月が見える
群青色の空
ささやき合う山々の影
そのうえのほう
ひかえめだった月のひかりは
青白くあたりを明らめ
なをもたかく
闇の深まりとともに
いっそうの輝きをましながら
心の奥にある
弱さ愚かさも
静かに照らしてくれる
《涙の情景》
涙の向こうにあふれる世界は
不思議なくらいきれいに見える
闇がひかりをさえぎって
行き詰まってつらくても
涙に浮かぶ情景は
人を責めるより
笑顔でいたいと言うように
不思議なくらい
きれいに見える
《いのちのぬくもり》
ふれている手のひら
あたたかい
きっといのちのぬくもりだ
両腕でも抱えきれない
幹の下にいると
空は見えず
大きな傘をさしているよう
おだやかな風がそよいでは
若葉の香りがあたりにただよう
わたしは生きているよ
わたしは生きているよ
そう聞こえてくる
《知らざる者へ》
ガラスの窓
小さな羽虫
部屋に入りたいと
駄々をこねる
なかに入って
いいことなんてないことを
この虫は知らないのだろう
たとえ好奇心は満たせても
電気のカサのなか
干からびて
やがては死んでしまうかもしれない
いったい僕は
なんて教えてやればいいだろう
《小さき花の歌》
可憐なる小さき花よ
チェリーの色した小さき花よ
どうしてそんなに楽しそうなの
あなたが口ずさむ歌は
わたしの心をやわらかくする
ながれる歌声は
あたりの木々にも
向こうの花壇の黄色い花にも
真綿のようにとどくだろう
そうしてみなが口ずさむ歌は
わたしの心を
そよ風にするだろう